リビングデッド・アンデッド

 

精神的には何度も死んでいる。

 

このまま目覚めなければいいのに、と思いながらも人は朝になれば重い体を引き摺ってベッドから抜け出し、学校や仕事へ向かう。

 

人間はゾンビだ。

何度も死んで、何度も蘇る。

 

ゾンビもののストーリーを構想する事が多々ある。最近はそんな事もないけれど、仕事ばかりしていた頃はよくしたものだ。

 

朝起きてテレビのニュースをぼうっと眺めていると、本人すらよく理解していないようなパンデミックの速報をキャスターが話している。画面いっぱいに叫ぶ人間達が写って、私はそれを見て笑顔になる。今日は仕事行かなくて済むのかな、って。

 

部屋にある1番大きなバックパックに、必要最低限のものを詰め込む。財布や印鑑なんかは置いていく。何の役にも立たないから。

 

ゾンビから逃げて、戦い、生き延びる為に1番最適な道具ってなんだろう?

某番組ではバールが1番利便性が高いなんて言ってたけど、実際ゾンビと対面しないと分からないな。一応持っていこう。幸い工具はうちに揃っている。

あとはキルアくんのフィギュアかな、これは精神の安定の為に持って行こう。邪魔だって言われてもこれだけは守るんだ。人は守るものがある方が強くなれるって、少年ジャンプに教えてもらった気がするから。

 

着替えと、スマホのバッテリー、鎮痛剤、消毒液。

 

友達の運転するハイエースを、ベランダで煙草吸いながら待つ。こんな日だから文句言う奴も、もう居ない。

 

何処に行こうかな、何処で暴れて、何処で守って、何処で死んで、何処でゾンビになろうかな。

 

迎えのハイエースの、クラクションが1度だけ鳴った。ゾンビは音の鳴るほうへ集まりやすいから、1度だけ。

 

人間はゾンビだ。

何度も死んで、何度も蘇る。

 

ハイエースに乗り込んだら、ORANGERANGEを大音量で長して走り出そう。この街のゾンビを引き連れるだけ引き連れて、この街を出よう。ハイエースの中はいつもみたいに皆くだらない事で大笑いしてて、誰も自分が死ぬなんて思ってなくて、何処で使うんだよって言いながらギターやベースを取り出して、今だろ、ってアンプに繋がらない楽器を鳴らしながら、大声で歌うんだ。

 

多くの家のリビングが、空っぽになる。

生活感を残したまま、廃れていく。