曖昧な匂いvol.2

 

恋人は見かけによらず、金木犀の匂いが好き側の人らしい。

「あー、キンモクセイの匂いがする!」と年甲斐もなくはしゃぐおじさんはご機嫌で少し可愛いのだが、私は困った事に金木犀の匂いが分からない。

外を歩くと偶に薫る、もわっとした曖昧な匂い。この正体が金木犀らしいのだが何度嗅いでも覚えられないのは興味が無いからなのか、寧ろ苦手だからなのか。

 

薬局に用事があって立ち寄った時、金木犀の匂いが入ったコロンやオイルが羅列された一角が出来ていた。

最近髪のパサつきを気にし始めた恋人は後日、金木犀の香りが入ったヘアオイルを買ってきたようで髪をまとめる際嬉々として使っている。

 

もう一度、嗅ぐ。

 

やっぱりよく分からない。

昨日嗅いだばかりなのにもう思い出せない。

もしかして私は金木犀にトラウマがあって、精神的に思い出さないよう匂いを脳の端っこに追いやってるのでは?と考えるくらいに、思い出せない。

 

「こんなにいい匂いなのに」

 

と、恋人は言うけれど 私は金木犀の匂いを嗅いでいる間しか 金木犀の匂いを認知出来ないし(それでも凄く理解に乏しい香り) 嗅いだ5秒後にはさっぱり匂いを忘れてしまう。

嫌悪を感じる匂いな訳では無いのに、どうしてこんなにも金木犀の匂いだけ認知ができないのだろう。

逆に悔しささえ覚える。

 

ずっと曖昧な存在なのに、脳裏には居続けるんだよな。またコイツと仲良くなれなかったって。毎年そう思って秋が過ぎる。

 

因みに私が好きな匂いは、冬の朝の匂いです。

冷たく澄んだ空気の中にちょっとだけしっとりした甘いまで行かないくらいの、アレを肺に吸い込むと メンソール吸ってるみたいな感じがして好き。