ああだこうだ言うヤツのお話。

 

 

遠い昔、2つの国が混在する小さな惑星があった。

 

海がまだ、海と名付けられるよりも、森がまだ森という名前を持つ前の話。

明瞭な大きな水溜まりは、そこを泳ぐ生物さえも反対側の海藻や小石が透けて見得る程に透明で、青々と茂る緑には、我々が見た事も無いような、原色に染る沢山の果実が実っていた。それらの恩恵を、2つの国は平等に分けて平和に暮らしていたという。

2つの国は、それぞれの色によって区分されていた。爪を赤く染めているのがアーダ国民。爪を紺色に染めているのがコーダ国民。といっても国に明確な線引きはなく、木の枝を使って地面に印を付けただけの簡単な領土だった。お互いの国を行き来するにも面倒な手続きは無く、相手の国の知り合いを1人連れて居れば、何不自由なく両国を移動することが出来た。

 

アーダ国に、ボッチという若者が居た。

彼にはコーダ国どころか、自国にも友人と呼べる人間がいなかった。しかし、生きることに苦労はしなかった。線を跨がずとも、こちらの領土で狩りは出来るし、果実もある。彼は体格にも恵まれて居たし、地頭も良かった。しかし周囲は彼を木偶の坊と呼んだ。彼の考えている事など誰も知り得なかったせいだ。

ボッチは、今で言う机や椅子、器、屋根のある家、生活が豊かになるような物全てを1人で作り上げ、そこに1人で住んでいた。草木が生い茂る中、ひっそりと そこがボッチの住処であった。

ボッチは食料を調達する為に家を空けた。

今日はいつもより遠くに行ってみよう。

 

ボッチが家を出てまもなくの事、国の子供たちが鬼ごっこをしていた際に偶然ボッチの小屋を見つけた。中に入り、今まで誰も見た事がないような形をした木材達が自立して居るのを目の当たりにして、歓声を上げた。

 

「新しい発見だ。こんな形をした木材が地面から生えているなんて!それにここにいれば、上から降ってくる水や 風も凌げるぞ。国の皆に報告しよう」

 

子供たちはすぐさま小屋を抜け出し、見たものを国の大人たちに報告した。大人達は初めこそ聞く耳を持たなかったものの、1人ではなく多数の子供たちがそれを見た事を証言した為、子供たちの発言を信じきった。

大人達は子供たちに連れられ、ボッチの小屋へと向かい、部屋の中にある用途も分からないような木材を全て国の中心へ運び出してしまった。

 

一方その頃ボッチは、人の居ないどこまでも続く地平線を歩き続け、自国では見たことの無い金色の果実を見つけた。

それを手に取ろうと腕を伸ばした時、背後に爪を紺色に染めたコーダ国の男が二人、その腕を掴んだ。

 

「お前、アーダの者だな。連れはどうした」

 

ボッチは一瞬で理解した。

この惑星は丸かったのだ。

 

「アーダから3時間ほど歩き、ここにたどり着きました。コーダ国に知り合いは居りません」

「バカを言え、線を跨がずに我が国の領土に入れる訳が無かろう。不法侵入だ」

「3時間も独りで歩き続けるなんて、気が狂ってでもいないと出来ないだろう。お前は唯一である二国のルールを侵した。アーダの王の前で処してもらおう」

 

コーダの男に捕らえられたボッチは、そのままアーダの国王の前へと突き出された。

不満そうな顔で王の顔を見上げると、王は何故かボッチの作った木の器を頭に被り、ボッチを見下ろしていた。

 

「お前、独りでコーダとの国境を跨いだとは本当か」

「いえ、違います。アーダの地を歩き続けた結果、コーダの国民と出会しました。この地は丸い球体で出来ています」

「正気か。球体で出来ていたら人々は地に足を付けて居られるわけが無かろう」

「いいえ、事実です。アーダ国とコーダ国は繋がっていたのです。その事を立証するには、この地が球体である以外に考えられません」

「アーダコーダ五月蝿いヤツめ。この者は嘘を付いている。すぐ様にこやつを処刑せよ」

 

ボッチの頭上には大きな石を持ち上げた男が立っていた。

 

「何か言い残すことはあるか」

 

王はボッチに尋ねた。

ボッチは少しばかり、頭を捻ってこう言った。

 

「王様、それは食料を載せる為の受けであり、頭に被るものではありません」

 

ボッチは最期まで独りだった。

誰も彼を信用しなかったし、味方をしてくれなかった。

それでも彼は、自分の生き方を後悔しなかった。

こんな馬鹿な奴等と群れなくて良かったと、心底思いながら固く目を閉じた。

 

 

これが所謂、ああだこうだの語源である。

 

 

※この物語は私が考えたフィクションなので実在の人物、歴史、語源も全てテキトーであり、事実とは何ら関係はありません。