幼少期〜小学生編で記した事も相まって、先生=大人への不信感は募る一方だった。
良い子、悪い子は全て「大人にとって都合の」良い子、悪い子だと思っていたし、中学に上がってからも先生という生き物に対して嫌悪感しか無かった。
中学1年生の時、私はわかりやすく反抗期だったと思う。当時の担任だった先生に「なんで勉強しなければいけないのか」をしつこく、それはしつこく尋ねていた。
それに対する先生の答えは「社会に出て生きてく為に必要な勉強は極わずかだけど、将来自分に子どもができた時、教えてあげられたらかっこいいだろ」だった。
私は子どもなんか産まないし、結婚もしないから関係ないじゃん、と勉強する事を辞めた。
その分の時間は、全て部活と、読書に当てた。勉強は嫌いだったけど本を読む事は父の影響で凄く好きだったから、朝礼前や昼休み等の長めの休み時間は殆ど図書室で過ごした。司書の先生とだけは仲良くなれて、自分が読みたい本を発注して貰ったり、おすすめの本を教えあったり、可愛がってもらったと思う。放課後はチャイムがなると同時に武道場へ向かって、外周や筋トレ、とにかく部活に打ち込んだ。それに加えてクラブチームでの遠征や夜練習もあった為、体力がめちゃくちゃあったし、大会での成績も良かった。
中学3年生になると、「大人にとって都合の」良い子になる方が何かと得だと言う事が分かった。受験の事もあったから、3年生の間は都合の良い生徒を演じていて損は無いだろうという浅はかな目論見だった。勉強は相変わらず出来なかったけれど、部活の成績で推薦を貰える事が出来たし、皆が苦戦していた課題の小論文も読書のおかげで苦労はしなかった。
話は変わって。
私の中学には誰しもが憧れるマドンナ的な存在の女の子が居た。その子は所謂ギャル、と形容するのがピッタリな女の子だったのだが、学年の男の子は基本的にその子に夢中で、何とか遊びの約束を取り付けようと夜遊びに誘っていたと当時も噂でよく耳にした。
私自身はその子と交流があまり無かったけれど、当時私が連んでいた友達とマドンナが、特段仲のいい友人同士だったこともあり、卒業間際は3人で小論文勉強会をよく開いていた。
参考書を貸したり出来た論文を添削したりしながら、真っ暗になるまで文字を書いていた。
中学校の卒業式、私にとっての重要な分岐点になる出来事が起きる。
卒業式が終わって、卒業アルバムに寄せ書きを貰おうと生徒の多くが廊下に屯している中で、私はマドンナにキスをされた。
頬や額ではない。口と、口である。
身長の小さかった彼女は、私の頬を両手で包み込み、ぐいと引き寄せ、其の儘接吻。
周囲も私も唖然。ケロリとしているのは当の本人だけ。
「作文の勉強、教えてくれてありがとう!おかげで高校受かったよ!」
月並みな表現ではあるが、その時の彼女の笑顔といえばそれはもう、とびきり可愛くて。
遅れてやってきた胸の高鳴りを悟られないよう、「どういたしまして」と虫の鳴くような声で返したと思う。キスされた後のことはもう、よく覚えていないけど。
これが私のファーストキスです。
今思い返しても、人生で1番のキスだったと思います。
元々兆候はあったものの、踏み切れなかった私の背中をトンと押してくれたのが、マドンナです。本人は全くその気は無いし、私が女の子を好きになるってのを助長させたって事、全く自覚は無いはず。
彼女は未だに時々、SNSでメッセージをくれます。
内容は至って普通で、元気にしてる?とか地元に帰ってきたら会おうね、等の社交辞令ワードです。でも私と彼女はもう完全に住む世界が違うような生活を送っていて、万が一会う機会があっても 私となんか話は合わないだろうし楽しませてあげることも出来ないだろうな。
彼女がSNSに華やかな写真を上げる、その度に私は中学のこの出来事を思い出します。
きっと相手は、一切覚えていないのだろうけど。
中学生編 [完]